「エンジニアになろう」
そう決意した、あの日のこと。 僕は、希望よりも、遥かに大きな「恐怖」に支配されていました。
「やっと営業として仕事に慣れてきたのに、この積み重ねを全部捨てるのか?」 「新しい場所で失敗したら、どうしよう」 「失敗するくらいなら、今の営業を続けている方が、まだマシなんじゃないか…?」
もしあなたが今、キャリアを変えたいという想いと、現状維持という引力との間で、身動きが取れなくなっているなら。 この記事は、あなたのためのものです。
こんにちは。このブログを運営している酒井です。 これは、ノウハウやテクニックを語る記事ではありません。
ITの知識ゼロ、プログラミング経験ゼロだった、ただの営業マンだった僕が、「何から始めればいいか分からない」という絶望的な不安とどう向き合い、その恐怖をかき消すために、泥臭く踏み出した「最初の一歩」についての、僕自身の物語です。
「立ち止まったら、死ぬ」恐怖に背中を押された日々
僕がキャリアチェンジを決意したのは、ある先輩社員から「このまま営業を続けても、未来はないね」という、決定的な一言をもらったことがきっかけでした。 (その日の詳しい情景は、別の記事でお話ししています)
しかし、「決意」したのはいいものの、僕は完全に途方に暮れていました。 当時の僕には、営業スキル以外、何もなかったからです。
「エンジニアになる」と決めたはいいが、何から? プログラミング? ネットワーク? クラウド? 言葉の意味すら、分からない。
目の前には、あまりにも高く、分厚い「専門知識の壁」がそびえ立っていました。
そして、僕の心の中では、ネガティブな声が鳴り響きます。 「お前にできるわけがない」 「失敗したら、社内で笑いものだ」 「今のままでいいじゃないか」
この声に、押しつぶされそうでした。 だから、僕には「行動ゼロで葛藤する」という選択肢はなかったのです。 一瞬でも立ち止まったら、このネガティブな声に、僕の「変わりたい」という小さな炎は、かき消されてしまう。
そう感じた僕は、まるで何かに取り憑かれたように、とにかく「行動」することにしました。 恐怖を、行動で上書きしようとしたのです。
僕の「最初の一歩」は、技術の勉強ではなかった
その「最初の一歩」は、驚かれるかもしれませんが、ITの勉強ではありませんでした。 僕がまずやったこと。それは、「恐怖」と戦うための「羅針盤」を作ることでした。
僕はそれを「未来の年表」と呼んでいます。 いわゆる「ビジョンボード」のようなものです。
なぜ、そんなことをしたのか? それは、「失敗したらどうしよう」というネガティブな未来像があまりにもリアルだったから。 ならば、「成功した未来」も、同じくらいリアルに、五感で感じられるレベルまで視覚化しなければ、太刀打ちできないと考えたのです。
僕は、近所の文房具屋で、大きなノートを買ってきました。 そして、部屋にこもり、自分の「欲望」を、ページに書き殴っていきました。
「こんな収入が欲しい」 「こんな毎日を過ごしたい」 「こんな人間になりたい」
ワクワクしました。 「こんな人生が送れたら、最高に楽しいだろうな」と、子供のように夢中になりました。
しかし、同時に、強烈な「危機感」にも襲われました。 書き出した理想の未来と、今の自分の姿が、あまりにもかけ離れていたからです。
「30歳までに、年収800万円になりたい」
ノートに書きなぐった、その一文。 当時の僕の年収(300万円程度)からすれば、それは絶対に到達不可能な、馬鹿げた目標でした。
「今の営業の延長線上には、この未来は絶対に、ない」
僕は、その事実を突きつけられました。 ワクワクする理想と、絶望的な現実。そのギャップが、「絶対にこれを現実にするんだ」という、怒りにも似た、強烈なエネルギーに変わったのです。
僕は、その「年収800万」というゴールの横に、新しい文章を記載しました。 「そのために、何を、いつまでに行動するのか?」 その年表を完成させ、毎日必ず目に入るPCの横に置きました。
これが、僕の「恐怖」を「行動計画」に変えた、本当の「最初の一歩」でした。
挫折、そして「戻れない」という絶望
羅針盤を手に入れた僕は、次こそ「行動」だと、ITの勉強を始めました。 世の中のエンジニアのイメージ通り、「まずはプログラミングだろう」と。
そして、見事に、打ちのめされました。
プログラミングの学習が、1ミリも理解できなかったのです。 「変数」「関数」「クラス」「アルゴリズム」… 呪文にしか見えませんでした。 分からない概念(例:オブジェクト指向)を検索すると、その説明文に、さらに分からない専門用語が3つ出てくる、あの「英英辞書」の無限ループ。
そして、ある夜。 ついに、僕の心は折れました。 買ったばかりの参考書を、「こんなの分かるか!」と、本気で部屋の壁に投げつけていました。
パラパラと床に散らばるページを前に、僕は呆然と立ち尽くしました。 頭の中は、真っ白でした。
でも、不思議なことに、「じゃあ、営業に戻ろう」という考えは、一切浮かびませんでした。 もう、戻れなかったんです。 あの「未来の年表」を見てしまったから。 先輩の「ないね」という言葉を聞いてしまったから。
「戻れない。しかし、前も真っ暗で、進めない」
これこそが、僕の人生で最大の「絶望」でした。 どうしよう。どうすればいいんだ。 でも、絶望していても、何も始まらない。 「じゃあ、どうする?」 僕は、諦めきれない想いで、何か別の道はないかと、会社のイントラネット(社内ポータル)を眺めていました。
「カンダタのクモの糸」が降りてきた瞬間
プログラミングがダメなら、もう営業に戻るしかないのか… そう諦めかけていた、その時でした。
「社内異動(公募)制度」の募集一覧。 その中に、見慣れないポジション名を見つけたのです。
「Microsoft 365 エンジニア」
「Microsoft 365…? あの、いつも使ってるTeamsとかOutlookのことか? これがエンジニア?」
僕は、その募集要項を食い入るように読みました。 そして、そこに書かれていた「求める人物像」に、衝撃で体が震えるのを覚えたのです。
「必須スキル:プログラミング経験(不問)」
「歓迎スキル:顧客へのヒアリング能力、提案能力、コミュニケーション能力」
「エンジニア=プログラミング必須」 僕を縛り付けていた、あの分厚い固定観念が、ガラガラと音を立てて崩れていきました。
プログラミングなしでも、エンジニアとして活躍できる。 世の中から、これほどまでに必要とされている。 収入も、働き方も、僕がビジョンボードに描いた理想そのものじゃないか。
それは、脚色でも何でもなく、芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』に出てくる、地獄の底に垂らされてきた、一本の光り輝く糸のように見えました。
「これが、僕の人生の“カンダタのクモの糸”だ」
僕は、その糸に、必死で食らいつきました。 「これを掴めば、自分は変われる」と。
僕が営業として培ってきた「お客様の課題を聞く力」や「解決策を提案する力」が、この世界では最強の武器になる。 プログラミングで挫折した僕は、技術力ではなく、営業経験という「強み」で戦える場所を、ついに見つけたのです。
あなたの「最初の一歩」は、どこにありますか?
この記事は、僕の「最初の一歩」の物語です。
それは、
- 「後悔したくない」という恐怖と向き合い、
- 「ワクワクする未来」を具体的に描き(ビジョンボード)、
- 「プログラミング」という王道で盛大に挫折し、
- 「M365」という、自分だけの「クモの糸」を見つける
という、泥臭く、決してスマートではない道のりでした。
もし、あなたが今、「何から始めればいいか分からない」と立ち尽くしているなら。 僕のこの失敗だらけの物語が、何か一つでもヒントになれば、こんなに嬉しいことはありません。
あなたの「最初の一歩」も、立派な参考書を開くことではないかもしれません。 まずは、あなたの心が本当に望んでいる未来を、紙に書き出してみること。 それこそが、暗闇の「今」と、光り輝く「未来」とを繋ぐ、最も確実な一歩になるはずです。
このブログ「ノーコードキャリア」は、その「一歩」を踏み出したあなたが、次に何をすべきか、その具体的な「地図」を、僕の全ての経験を注ぎ込んで、描き続けている場所です。
あなたの「クモの糸」は、どこに垂れていますか? 一緒に、見つけにいきましょう。
