「君の強みは何ですか?」
30代を目前にした営業時代の僕が、面接でそう聞かれて言葉に詰まった、あの日のこと。 頭の中を駆け巡るのは、顧客への提案、社内での調整、目標数字の達成…。たくさんの経験をしてきたはずなのに、それを自分の「強み」として、自信を持って言葉にできない。
そして、不意に気づいてしまうんです。 「あれ、もしかして俺、営業しかできない…?」
もしあなたが今、30代というキャリアの節目で、同じように「自分には専門スキルがない…」と、見えない不安に苦しんでいるなら。この記事は、あなたのためのものです。
こんにちは。このブログを運営している酒井です。私自身も、大手通信会社でIT営業を経験した後、エンジニアに転身し、最終的に独立(年収は会社員時代の3倍になりました)というキャリアを歩んできました。
この記事では、私の個人的な体験談は3割程度に留め、残りの7割は、世の中の客観的なデータや市場の傾向に基づき、「30代の営業 転職」がいかに戦略的な一手であるか、その具体的な道筋を解き明かしていきます。
第1章 30代の転職市場における「現実」と「チャンス」

1「35歳限界説」は、もう過去の話
まず、あなたを縛り付けているかもしれない、古い常識を捨て去りましょう。 かつて囁かれていた「35歳転職限界説」は、もはや過去の遺物です。厚生労働省の調査によれば、30代の転職成功者は増加傾向にあり、現在の市場は新しい挑戦を歓迎する土壌が整っています。
特に、ハイクラス転職エージェントのJAC Recruitmentのデータでは、2023年の転職成功者のうち、実に41%が30代であり、全年代で最も高い割合を占めています。これは、30代がキャリアを大きく飛躍させるための、まさに「プライムタイム」であることを示しています。
しかし、これは誰でも歓迎されるという意味ではありません。企業が30代に求めるのは、「即戦力」としての活躍。つまり、これまでの経験を活かせる「専門性」なのです。
2 あなたの「営業経験」という、最強の資産
「専門性と言われても、自分には営業経験しかない…」 そう思いましたか?それこそが、最大の誤解です。
あなたが営業活動を通じて培ってきたスキルは、特定の製品知識ではなく、あらゆるビジネスシーンで通用する普遍的な能力(ポータブルスキル)であり、特にIT業界で極めて高く評価されます。
- コミュニケーション能力と交渉力:
顧客の真のニーズを引き出す「傾聴力」と、価値を魅力的に伝える「提案力」。 - 課題解決力と企画提案力:
顧客の潜在的な課題を診断し、解決策を提示する「ソリューション提案」を行う力。 - 目標達成志向と自己管理能力:
目標から逆算して行動計画を立て、粘り強く成果を追求する力。
私自身、エンジニアに転身した後、最も役に立ったのは営業時代に培ったコミュニケーション能力でした。技術的な知識はもちろん必要ですが、お客様やチームメンバーと円滑に意思疎通を図り、プロジェクトを前に進める力は、技術だけでは補えません。この「翻訳力」こそが、私の市場価値を高めてくれたと確信しています。
これらのスキルは、あなたのキャリアにおける最も価値ある「資産」です。問題は、この資産をいかにして、成長著しいIT業界の文脈で「翻訳」し、その価値を提示できるかにあります。
第2章 ハイブリッド人材という必然:「営業×IT」が最強の組み合わせである理由

1 すべてのビジネスを飲み込む「SaaS」という巨大な波
現代のビジネス環境を語る上で、SaaS (Software as a Service) の台頭は避けて通れません。国内のSaaS市場は、2023年の1.3兆円から2028年には2兆円へと、わずか5年で1.5倍に拡大すると予測されています。
この爆発的な成長の背景には、デジタルトランスフォーメーション (DX) の加速やリモートワークの常態化があります。 この潮流が営業職に与える最も重要な影響は、ビジネスモデルの変化です。従来の「売り切り型」では契約成立がゴールでしたが、月額課金が基本の「サブスクリプション」モデルでは、契約はスタートラインに過ぎません。ビジネスの成功は、「いかに顧客に長く継続利用してもらうか(LTV: 顧客生涯価値の最大化)」へと重心を移しました。
2 ハイブリッド人材:「ビジネス」と「技術」の翻訳家
この新しいビジネスモデルの中で、今、喉から手が出るほど求められているのが「ハイブリッド人材」です。
ハイブリッド人材とは、営業で培った高度な対人スキルと、ビジネスを動かす上で十分なITリテラシーを兼ね備えた専門家を指します。彼らはプロのプログラマーである必要はありませんが、テクノロジーが「何ができて、何ができないのか」を深く理解し、そのビジネス上の意味を語ることができなければなりません。
彼らの独自の価値は、「翻訳家」として機能する点にあります。
- 顧客の経営課題をヒアリングし、技術要件に落とし込む。
- エンジニアの技術的ソリューションを、具体的なビジネス価値に変換して顧客に伝える。
この双方向の翻訳能力こそが、ハイブリッド人材の核心的価値であり、企業があなたのような営業経験者を渇望する理由なのです。
第3章 高付加価値なハイブリッドキャリアパス:3つの具体的な選択肢

「営業×IT」のスキルセットは、現代の労働市場で高い需要と報酬を誇る、具体的な職種へと結実します。ここでは、営業経験者がその能力を最大限に活かせる3つの代表的なキャリアパスを紹介します。
1 セールスエンジニア:技術と営業の架け橋
- 役割: 営業担当者と二人三脚で、商談の技術的な側面を担う専門職。
- なぜ営業経験が活きる? 専門知識を非技術者にも分かりやすく説明するコミュニケーション能力、顧客の真の課題を掘り下げるヒアリング能力が鍵。
- 年収: 平均約612万円、経験者なら800万円超も。
2 ITコンサルタント:企業の課題を解決する戦略的アドバイザー
- 役割: ITを駆使した戦略的な解決策を提言・実行支援する専門家。
- なぜ営業経験が活きる? 本質的に「高度なコンサルティング営業」。多様な関係者との合意形成を図る調整能力、投資対効果を示す提案力が求められる。
- 年収: 極めて高く、マネージャークラスで900万円~1,700万円、パートナークラスでは2,000万円超も。
3 カスタマーサクセスマネージャー:サブスクリプション時代の成長エンジン
- 役割: 顧客がサービス価値を最大化し「成功体験」を得られるよう能動的に支援する専門職。
- なぜ営業経験が活きる? いわば「売上目標を直接課されない営業」。長期的な信頼関係構築力、顧客のビジネス目標を理解しサービスと結びつける課題解決能力が求められる。
- 年収: 平均400万円~900万円、シニア/マネージャーでは1,000万円超も。SaaS業界の成長に伴い求人数は過去3年で12倍に増加。
私が現在主に行っているMicrosoft 365(SaaS)の導入・活用支援は、カスタマーサクセスやITコンサルタントに近い側面があります。お客様の業務を深く理解し、最適なIT活用を提案・実現していくプロセスには、営業時代に培ったヒアリング力や課題解決能力が不可欠です。技術力だけでは、お客様の本当の「成功」は支援できないと日々実感しています。
第4章 あなたの行動計画:ITスキル習得への実践的ガイド

キャリアを進化させる決意を、具体的な行動に移すためのロードマップです。
1 基礎を築く:ゼロからイチへ
- マインドセット:
目標はコードを完璧に書くことではなく、「技術的リテラシー」を身につけ、エンジニアと対話できるようになること。 - 最初の一歩:
客観的なスキルの証明と学習の指針として、「ITパスポート試験」や「基本情報技術者試験」の取得を目指しましょう。ITの共通言語を体系的に学べます。
2 学習パスを描く:自分に合った方法の選択
- 体系的な学習:
プログラミングスクールは構造化されたカリキュラムと指導が魅力ですが、費用と時間が必要です。 - 自己学習:
Udemy、Progate、YouTubeなど低コストで柔軟ですが、自己管理能力が必須です。 - コミュニティ:
connpassなどで勉強会に参加し、仲間作りと情報収集、モチベーション維持を図りましょう。
3 スキルを可視化する:「語る」のではなく「示す」
- ポートフォリオ:
複雑なアプリでなくてOKです。SaaS企業のビジネスモデル分析レポート、学習した技術ブログ記事、簡単な自己紹介サイトなど、学習の軌跡と情熱を示すものを作成しましょう。 - 実践への応用:
学んだ知識を自身の営業データ分析や業務プロセス改善提案に応用し、面接で語れるエピソードを作りましょう。
結論:「営業しかできない」は、もう終わり

30代というキャリアの転換期は、限界ではなく、飛躍のチャンスです。あなたが営業の最前線で培ってきた力は、未来を築くための強固な「土台」に他なりません。
そして、その土台の上に築くべきものが「ITリテラシー」。 セールスエンジニア、ITコンサルタント、カスタマーサクセスマネージャーといったハイブリッドなキャリアは、「人間理解の力」と「技術理解の力」を掛け合わせることで生まれる、新しい価値の形です。
私自身が営業から技術分野へとキャリアを転換し、その可能性を実感した一人として断言できます。行動すれば、必ず何かが変わります。未来は、誰かに与えられるものではなく、自ら設計するものです。
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