「エンジニアになりたい。でも、自分には誇れるような技術(スキル)が何もない…」
「営業として何年も働いてきたけど、この経験なんて、ITの世界では何の役にも立たないんだろうな…」
もしあなたが今、履歴書の「スキル欄」の空白を眺めながら、そんなため息をついているなら。 どうか顔を上げてください。その認識は、180度間違っています。
こんにちは。このブログを運営している酒井です。
私自身、かつては大手通信会社の営業職でした。 「プログラミングなんて書けない」 「サーバーの黒い画面(CUI)なんて見たこともない」 そんな、いわゆる「技術力ゼロ」の状態からキャリアをスタートさせましたが、今ではMicrosoft 365(M365)の専門家として独立し、多くの企業様をご支援させていただいています。
なぜ、技術力ゼロだった私が、エンジニアとして評価され、会社員時代の3倍もの年収を得られるようになったのか?
それは、M365エンジニアの世界において、「最も重要で、最も習得が難しいスキル」を、私が営業時代にすでに身につけていたからです。
この記事では、多くの人が誤解している「エンジニアに必要なスキル」の正体と、あなたの営業経験が、いかにして「最強の武器」に変わるのか。そのカラクリを、私の実体験を交えて徹底的に解説します。
誤解だらけの「エンジニアのスキル」
まず、世の中の「エンジニア像」に縛られるのをやめましょう。 多くの人は、エンジニアのスキルと聞くと、以下のようなものを思い浮かべます。
- 複雑なプログラミングコードを、高速でタイピングする能力
- サーバーの黒い画面に呪文のようなコマンドを打ち込む能力
- 最新のアルゴリズムを理解し、実装する数学的能力
確かに、Web開発やAI開発の世界では、これらは必須のスキルです。 しかし、私が専門とする「Microsoft 365(SaaS)エンジニア」の世界は、全く違います。
M365は、すでにマイクロソフトが完成させてくれた「製品」です。 私たちがやるべきことは、コードを書くことではありません。 「目の前のお客様の業務に合わせて、この便利な道具(M365)の設定をどう調整し、どう組み合わせれば、仕事が楽になるか」を考え、実行することです。
ここで求められるのは、「パソコンと向き合う力」ではありません。 「人と向き合い、課題を解決する力」です。
そう、まさにあなたが営業として、泥臭く磨いてきたスキルの出番なのです。
営業経験者がすでに持っている、3つの「最強スキル」
では具体的に、あなたのどんな営業スキルが、エンジニアの現場で役立つのでしょうか? 私が現場で痛感している、「技術力よりも重要な3つのスキル」をご紹介します。
スキル1:顧客の「言いたいこと」を翻訳する『真のヒアリング能力』
エンジニアの仕事のスタートは、「お客様が何に困っているか」を知ることです。 しかし、お客様はITのプロではありません。 「なんかメールが使いにくいんだよね」 「ファイル共有をもっと簡単にしたい」 といった、漠然とした言葉(要望)しか出てきません。
ここで、技術一辺倒のエンジニアはこう答えてしまいます。 「で、仕様はどうしますか? 機能要件を定義してください」
これでは、会話になりません。 しかし、営業出身のあなたなら、どうするでしょうか?
- 「使いにくいというのは、具体的にどの画面で、どんな作業をする時ですか?」
- 「ファイルを共有したい相手は社内ですか? 社外ですか? 頻度は?」
- 「ああ、それなら『SharePoint』を使うより、まずは『Teams』のチャットで送る運用の方が、今の御社のフローには合っていますね」
このように、お客様の「漠然とした要望」の裏にある「真の課題(ニーズ)」を掘り下げ、それを具体的な「解決策」へと翻訳する力。 これこそが、システム開発の最上流工程である「要件定義」の正体です。
あなたが普段、商談で当たり前にやっている「ヒアリング」は、エンジニアの世界では「超一流の要件定義スキル」として、高く評価されるのです。
スキル2:難しい話を「腹落ち」させる『言語化・提案力』
M365には、何千という機能があります。 しかし、お客様に「Entra IDの条件付きアクセスで多要素認証を強制し…」なんて専門用語で説明しても、ポカンとされるだけです。
ここで活きるのが、営業特有の「相手のメリットに合わせて話す力(提案力)」です。
- 技術者の説明:
「セキュリティ強化のため、MFAを導入します」 - あなたの説明:
「最近、パスワードの使い回しによる乗っ取り被害が増えていますよね? スマホに通知が来て『OK』を押すだけの仕組みを入れるだけで、そのリスクをゼロにできます。社員の方の手間もほとんど増えませんよ」
このように、複雑な技術を「お客様の言葉」に変換し、「それはいいね!」と腹落ちさせる力。 これがあるだけで、プロジェクトの進行スピードは何倍にも早くなります。これは、技術書を何冊読んでも身につかない、現場で培ったあなただけの武器です。
スキル3:板挟みを乗り越える『調整・推進力』
システム導入プロジェクトは、綺麗な一本道ではありません。 「総務部は賛成だけど、営業部は『面倒だ』と反対している」 「社長の鶴の一声で、急に仕様が変わった」 そんなトラブルの連続です。
この時、PCの前でフリーズしてしまうエンジニアは多いです。 しかし、あなたは営業として、もっと理不尽な修羅場をくぐり抜けてきませんでしたか?
- 納期が遅れそうな時に、お客様に頭を下げて調整した経験。
- 無茶な要望を言うお客様と、渋る社内担当者の間で、落とし所を見つけた経験。
この「泥臭い調整力」と「ゴールに向けて人を動かす推進力」こそが、プロジェクトマネージャー(PM)に求められる最も重要な資質です。 「技術はあとからついてくる。でも、この調整力はセンスと経験だよね」と、多くの採用担当者が口を揃えて言うポイントでもあります。
とはいえ、「ITスキル」はどうするの?
ここまで読んで、「営業スキルが大事なのは分かった。でも、M365の知識がゼロじゃ、仕事にならないでしょ?」と思ったあなた。 その通りです。知識は必要です。
しかし、恐れる必要はありません。 なぜなら、M365の知識(設定方法や機能)は、「暗記」する必要がないからです。
必要なのは「Google検索力」だけ
M365は世界中で使われているツールです。 「Teams 通知 消す方法」「SharePoint 権限設定」と検索すれば、マイクロソフトの公式ドキュメントや、先人たちが書いたブログ記事が山のように出てきます。
プロのエンジニアも、全ての機能を暗記しているわけではありません。 彼らが優れているのは、「分からないことがあった時、どう検索すれば答えにたどり着けるか」という「検索力」です。
「どのような単語でググればいいか(検索クエリの選定)」 「どのサイトの情報が信頼できるか(情報の取捨選択)」
このコツさえ掴めば、知識は必要な時に、必要なだけ引き出せます。 そして、この「検索の勘所」は、無料の試用版環境で実際に画面を触りながら、「あ、これをやりたい時はこう検索すればいいのか」と、1〜2ヶ月も遊んでいれば、自然と身につくレベルのものなのです。
プログラミング言語をゼロから習得する労力に比べれば、そのハードルは驚くほど低いと言えるでしょう。
まとめ:あなたはすでに「レベル30」のエンジニアかもしれない
「営業 から エンジニア」への転身を考える時、多くの人が「自分はスキルゼロの未経験者(レベル1)」だと考え、自信を失ってしまいます。
しかし、それは大きな間違いです。
システム導入の現場で最も重要とされる、 「要件定義(ヒアリング)」 「設計・提案(言語化)」 「プロジェクト管理(調整)」 という3つのコアスキルにおいて、あなたはすでに「レベル30」のベテランなのです。
足りないのは、ほんの少しの「ITの知識(M365の機能理解)」だけ。 そしてそれは、あなたのビジネススキルという土台があれば、驚くほどのスピードで吸収できます。
自信を持ってください。 あなたの営業経験は、IT業界では「過去の遺物」ではありません。 これからあなたがエンジニアとして輝くための、最大の「差別化ポイント」なのです。
今日から、履歴書の書き方を変えてみませんか? 「営業しかできません」ではなく、「営業経験を活かして、御社のプロジェクトを成功に導けるエンジニア候補です」と。
そのマインドセットの転換こそが、あなたのキャリアを劇的に変える、最初の一歩になるはずです。
